いるかちゃんヨロシク二次小説ファンサイトイラストこんばんはjuniです。
削除してしまったmameさんの作品。再アップします。もちろんイラストも入れてます。

~ 海 ~ (里見学習院 再びの春) 「いるか。」
ひょっこりと教室に顔を覗かせた人物に、教室内の女子が一瞬色めきだった。
彼女もそんな反応は慣れたもので、振り向きながら返事をする。
「どうしたの?春海。」
お互いに歩み寄り、距離が縮まったところで、彼が声を落として言った。
「海に行かないか?」
突然の申し出に、彼女はちょっと驚く。
突発的な行動をするのはいつも自分で、冷静沈着が代名詞の、彼の言葉とは思えない。
(冷静沈着・・・実は、彼女はそんな風に思ったことは、あまり無いのだが。)
「うん、いいよ。いつにする?」
「今度、二人で会える時。まぁ、時間があればだけど。」
笑いながら(はぁーっという女子の効果音?)言う彼の言葉。
生徒会会長・副会長で、野球部のエース・サッカー部のエース。
それだけならまだしも、凝り固まった学校に風を入れる為に、いろいろと手を尽くす毎日。
実際、校外で二人で会える時間はなかなか持てない。
「フフっそうだね。」
彼女も笑いながら答える。
忙しさに忙殺される毎日だが、悲観的な感情は湧かない。
この二人、今現在の環境には、感謝さえしている。
顔を見せ合い、隣に居る事が出来る。そんな日常が、難しい時期さえあったのだから。
「何とか時間を作るよ。」
微笑みながら言う。
「うん。楽しみにしてる。」
笑顔で彼女は答えた。
「いるか、次の日曜日にこの前の・・・」
生徒会室で彼女に話しかける。
会議も終わり他の役員も退出した。その場には彼らしか居ない。
「うん、あたしも言おうと思ってた。」
ぱっと振り向きざま、彼の言葉も終わらぬうちに彼女は答えた。
思いのほか早く来た「今度」のチャンス。
お互い楽しみにしていたと言うことだろう。気持ちが通じる幸福な瞬間。
「今度の日曜日の練習試合、相手の学校の都合で無くなってね。折角だから、久しぶりに休・み・に・・・・。」
笑顔で語る彼女を、微笑みながら見つめる彼。
その柔らかな表情と優しい目にさらされることに耐えられず、彼女はくるっと窓の方に向かい、カーテンを閉めに歩き出す。
「そうらしいな、玉子から聞いてるよ。良かった。野球部も、今度の練習が休みになりそうだから。」
「あっそうなんだ。へぇ、野球部の練習が休みって、めずらしいね。」
カーテンを閉めながらそう答えた。
「まぁ、そうだな。」ニヤッと笑みを漏らす。
突然、彼女がカーテンを握ったまま振り返った。
「どこの海に行くの。」
ほんわりと明るい灯火のような笑顔。自然と足が進む。
夢見るように見上げる彼女を、白いカーテンごと優しく優しく、そっと抱きしめた。
彼女を驚かせないように。彼女が慌てないように。
そして、静かに、腕の中の少女に語りかける。
「去年行った海。こっちに来てから最初に二人で出かけた。どうしても、また一緒に行きたくて。良いかな。」
コクン
小さく頷く彼女を、そっと腕の中から開放したのだった。
「明日、10時に家まで迎えに行くから。」
土曜日の夜の電話。受話器の向こうで彼が言った。
「春海、わざわざいいよ。家まで来なくてもさ。駅で待ち合わせよう。」
彼女は辞退を口にする。そう、わざわざ遠回りしなくてもよいだろう。
それに対して、答える彼。
「俺がいるかを迎えに行きたいんだ。」
迎えに行きたい・・・何かあるのだろうか?
「うん。それじゃ待ってるね。」
素直に好意として受取ろう。彼女はそう決めたようだ。
「まだ、結構寒いと思うから、暖かい格好をして来るんだよ。」
「うん。わかった。」
時々、過保護かとさえ思える彼の行動、言動。
本当に苦しい時ほど、弱音を吐かない彼女と一緒に居る内についてしまった癖?
それとも、彼女との係わり合いのすべてを楽しんでいるのか?
声の中に思いやりと喜びとが滲み、膨らむ期待に胸が高鳴る。
「明日、晴れたらいいね。」
「そうだな。いるか、ありがとう。」
「春海?」
どうしたの?言外に聞こえる声。
「折角の休みに、本当なら遊園地とかが良いだろ?」
彼女はふと考える。遊園地、確かに楽しいだろう。でも、結局、一番嬉しいのは彼と一緒である事。
「どこでもいいよ。ついでに雨でも晴れでもいいよ。春海と一緒だもん。海、好きだし。」
時々、無意識にでるこんな彼女の発言が、どれだけ彼を浮き立たせるのか気づかない。
「俺もそうだな。」
花嵐が駆け抜けるのを抑えつつ、彼女に答える。そう、どこだっていい。
「うん。それじゃ、寝坊しないように早めに寝るから。」
「ああ、お休み。」
「お休みなさい。」
カチャ・・・。受話器がおりる。声が途切れる。とてつもなく、それが切ない時があったと思い出す。
今は、すぐそばで、同じ物を見ることが出来る。
明日はすぐそこだ。
打ち寄せる波。乱反射してちる光。海からの風はまだまだ冷たい。
「いい天気になったね。でも、まだ寒いね。」
首をすくませて、海を見る。風が運ぶ潮の香りを吸い込む。
潮騒。誰もいない海。ふと思う。
二人で漂う夢を見そうだ。彼は彼女をそっと抱きしめた。
「はっ春海。」
「誰もいないよ。」
寒いからこそ許される距離。夏の海とは違う開放感。
「わかっててもさ。」後ろから羽交い絞め状態でも、身をよじって言う。
人一倍恥ずかしがり屋の彼女は、誰もいない海とわかっていても照れるらしい。
そんな彼女が可愛くて、愛しくて恋しくて、なおいっそう抱きしめた。
恋しい最後の1ピース。埋まらなければ永遠に完成しない。
とたんに色あせる世界の中で、遠くを見つめた日々には戻りたくはない。
抱きしめる力が弱まる気配は無く、息が苦しくなるほどだ。
「どうしたの?春海」
彼の強引とも言える行動に、少し不安になり首をそらし見上げた。
彼女の瞳に暗い色を見た彼は、優しく微笑みながら、突然語り始めた。
「いるかとの婚約に、全然、迷いは無かったよ。」
春海は、視線を海の方へ向けて目を細める。
めずらしい・・・光景。彼からの気持ちを貰ったことは何度かある。
ただし、それは特殊な時ばかりで、こんな風に落ち着いた時間に聞いたことはない。
いるかも海を見やった。
「一緒に東京に帰った日にさ、気持ちが通じていたことが解って、とても嬉しくて堪らなかった。」
家出事件の事らしい。
「そして、思い出した。」
愛しさが波のように打ち寄せて、瞳を濡らした君を思い出す。
「倉鹿に君が来て、いろいろあって、僕はいろんな事に気づいたよ。・・・自分が寂しかった事にも、いろんな人の優しさも。」
光る波間に、何が見えるわけではない。彼は、抱きしめる手を少し緩めた。
「そして、君が去るとわかった時に、本当に欲しいものが、今まで何もなかった事にも気づいた。」
「・・・。」
「初めてね。本当に欲しい物が何か気づいたんだ。離れたくない、いつもそばにいたいと思った。」
すべてが彼女に向かう。彼は体を少し震わせ、ぎゅっと全身に力をこめる。
「だから、いるかが去った日、おれは決心したよ。東京に行くって。おまえを失わないって。」
春海は、いるかを抱く腕に力を入れた。
「東京で再会して、同じ時間を過ごして・・・でも。」
でも、君は僕のもとを去った。そして、再び取り戻した。でも・・・。
思い知るだけだ。永遠は存在しない。
「あたしも、春海と離れたくないって思ってた。ずっと一緒にいたいって。」
「うん。」
「だから、今、一緒にいる。そして、ずっと一緒にいるって約束した。」
「・・・・・」
潮風が二人をつつむ。潮騒が語りかける。不安なのは誰?いったい何が彼を不安にするの?何故?
「いるかへの気持ちはかわらない。永遠に・・・。」
唐突に、彼は再び語りだした。
「でも、ずっと一緒にいたいって望んでも、必ず時が奪うんだ。」
春海は何が言いたいの?
「いくら一緒にいたいと望んでも、必ず、別れる。」
「春海、そんなこと言わないで。あたし誓うよ。」
いるかはグッと力をいれ、彼のほうに向き直った。
「あたしは、春海と、ずっと一緒にいる。もう、何も言わないで、消えたりしない。」
彼は、ゆっくりと首を横に振る。
「もう、私の言葉が信じられない?」
確かに自分は春海から去った。不安にさせたのは私。
もう一度、彼は首を横に振る。
「いるかを信じるとか、信じないとかじゃない。必ずそうなるんだよ。だから、今日ココに来たかった。」
ちょうど一年前の春、潮騒の音を聞きながら、2人でまた歩き始めた。この場所から・・・一つの時間を分け合う為に。
いぶしかしげに見上げる彼女を見つめて、言葉を続ける。
「いるか、我侭を言っていいか?一つだけ約束して欲しい。」
「なに?」
春海が我侭?春海が私に何か望むなんて・・・。
「俺の本心からの望みだよ。他には何もいらない。」
サラサラの黒髪の隙間から見える、真剣な眼差し。吸い込まれそうだ。
「うん。私に出来ることなら約束するよ。」
彼女は再び自分に問うた?彼が言いたいのは何?
「君にしか出来ない。でも、これは俺の我侭だ。」いるかの優しさにつけこんだ我侭だ。
「我侭でもいいよ。言ってみて。」
春海は一つ深呼吸する。そう、いるかにしか出来ない。彼女以外に願ったって、望んだって意味は無い。
何故か硬くなるからだ。深呼吸して言った。
「俺より、絶対に、先に、死なないで欲しい。」
やっと、言えた。体が、酸素を欲しがるのを感じる。
「ぁぁ」彼女はそっとささやく。
その声は小さくて、風が運んでしまった。
「それだけでいい。俺は君を離さない。何があっても離れない。自由な君でいてくれていい。俺より先に死ななければ。」
君しかいないんだ。欲しいものは。色の無い世界に、一人にしないで欲しい。
ようやく判った。彼の言いたいこと。確かに、あたしにしか出来ない。
「うん、春海より先に死なない。約束する。」
たった一つの、私への彼の我侭。受け止めなきゃね。
本来なら出来ないであろう約束。でも、二人には必要な約束。
「でも、春海も、私より先に死なないでね。ふたりで、じいちゃんとばあちゃんになって、ぽっくり逝こうよ」
「ああっポックリ・・・っておい。」
緊張の解けた瞬間。2人で大声で笑いあい、又、海を見つめながら彼が言った。
「そうだな。2人で・・・最高だな。」
「うん。」
「どんなことが待ってても、俺達なら平気だな。」
「うん。春海とならドンと来いだよ。」
さっきまでと同じ海なのに、何もかもが新しくなった気がする。
こんなに世界は美しかったのかと思う。
「いるか・・・」
「春海、綺麗だね。」
忘れない、忘れられない瞬間を重ねて、共に生きていこう。
2人でしか見られない世界を、手を繋いでいこう。2人ならはぐれることは無い。
「来年も来よう、この海を見に。その先もずっと。」
「うん。来年も再来年も、じいちゃん、ばあちゃんになっても。」
彼は微笑みながら、彼女のおでこにキスをした。

彼女は頬を染めながら、彼の洋服をキュッと握り締めた。
途切れない波、潮騒の祝福の中での約束。
~終わり~
いるかちゃんヨロシク二次小説 いるかちゃんヨロシクファンサイト 如月いるか 山本春海 いるヨロ いるかちゃんヨロシクイラスト いるかちゃんヨロシク画像 いるかちゃんヨロシク漫画
スポンサーサイト