こんばんは~juniです。
バレンタイン3部作の2つ目です。
前から書きたかったお話の一つだそうです。
~バレンタイン イブ~里見学習院に共に入学して、最初のバレンタインデーは土曜日。
今年は、特別な日にしたい、そう春海は思っていた。
さて、前日からバレンタイン攻撃?は始まった。
去年と同じで、倉鹿と東京、場所は違えど言う事は同じ。
「すまない、受取れない。」それだけを、春海は繰り返す。
野球部員や同級生達は「減るもんじゃないし、貰ってやればいいのに。」と口々に言うが、頑として彼は断った。
同じく人気の巧巳は、「サンキュー」と軽く笑顔で答えて受取っている。
断る春海には何も言わない。
そして、同じく人気のいるか。
リコール運動、球技大会、高校対抗駅伝大会、サッカー大会の活躍で、最初の頃の扱いは何処へやら、女子の人気はうなぎのぼりだ。
もともと里見中等部は男女別で、女子校的な文化?も盛んだったこともあり、結構な数を貰っている。
春海は、倉鹿修学院での経験で驚きもしないが、他の者はそうでもなかった様で、当のいるか本人も、想像していなかったらしい。
「え~~、新顔組だよ。あたし~。」と、最初は驚いていたようだが、次から次へと来る彼女らに、笑顔で「ありがとう。」と受取っていた。
結局、教室に置けない量のそれは、案の定、生徒会室に持ち込まれた。
その累々たるプレゼント・・・気にしていなかったはずなのに、気になる物がある。
花束となると、気になるものである。
その上、どう見ても、女子とは思えないカードに書かれた名前を、春海はじっと見詰めた。
巧巳がそれに気付く。
「里見はさ、気障なヤツっていうか、外国がぶれが多いんだよ。向こうじゃ、男が好きな女にプレゼントをやる日でもあるんだろ。」
好きな女・・・リコールの時の舞台衣装、文化祭の時の姿、女神と評される・・・いるか。
春海は、黙してプレゼントを睨み続け、その背中からは・・・。
「おい、殺気を漲らせるなよ。」
向けられた経験のあるそれに、巧巳は慌てた。
「・・・・・・。」
「やめろっ!」と巧巳は言うが、一向におさまる気配は無い。
そんな中。
ガチャ!
その音に、男2人がドアの方を見ると、大きな紙袋を持った、女子生徒が現れた。
「ふ~、高等部に来たら減ると思ってたのにさ。」
女子サッカー全国大会優勝の立役者の一人、玉子である。
ドサッ
そして、無造作に紙袋を置いたとたん、顔をしかめた。
「何だよ、2人して。それに何さ。この雰囲気。」
殺気みなぎる狭い空間。発信先は・・・。
「春海、何見てんのさ?」
山本春海を呼び捨てにする、数少ない(どちらかというと恐いもの知らず)女子の一人は、プレゼントの山に、再び見入る彼に話しかけた。
「ああ、いるかが貰ったヤツね。あいつ、すごい人気だよね。性別関係ないしさ。」
最後の台詞にぴくっと反応する。
「女子からのは、一応慣れてたみたいだね。男子からのは、慌てようが可笑しくてさ。」
彼の首が、ゆっくりと玉子に向けられると・・・。
ゾクッゾクッ!言いようの無い寒気が彼女を襲った。
「なんだよ。」
「春海、落ち着け。」
玉子の言葉を聞きながら、ヤバイか!と思ったものの、さすがに女子に対して、アレは無いだろうと・・・思った俺が甘かった。
一歩、二歩と進んだ春海の肩を掴む。
玉子は後ずさりながら、言葉を続ける。
「い、いるかもね。男子からのは断ってたんだよ。うん。」
春海が止めたのか、巧巳が抑えたのか、彼の足が止まったのは確かだ・・・しかし。
「でもさ、無理やり机に置いていったり、受取らされたり、大変みたいだよ。男って強引だよね。」
つづく言葉が原動力のように、半分巧巳を引きずるようにして、春海は一歩進んだ。
文化祭の後の、”いるかちゃん”ブームを思い出す。
プロデュースしたのは、た・ま・こ・お前だろ。

いるかは可愛い。そんな事は、俺だけが知っていればいいんだ。
・・・長めの前髪の下の目は、見えないというか、恐ろしくて見れない(ねぇ)!と2人は思った。
その時である。
「開けて~~~。誰か中にいるんでしょ~。」
聞きなれた声がする。
彼の行動は早く、そのはずみで、巧巳が前のめりになる。
そんなことはお構い無しと、ドアの前に立った春海は、さっと生徒会室の扉を開けた。
・・・段ボール箱が2段。想像していた顔は無い。
「いるか?」
「春海?良かった~。」
ダンボールが喋っているようだと一瞬思ったが、ヒョイッと、彼女に比べると大きな2個の壁を取り除く。
「ありがとう。」
笑顔のいるかに会えた・・・と、何故か当たり前な事を喜んでしまう。
倉鹿でも、プレゼントの山の前に座っていた彼女だ。今現在の活躍を考えれば、当然といえよう。
「大変だったみたいだね。こりゃ、明日はどうなるだろ~ね~。」
玉子が呆れたように言った。
中等部時代、玉子は結構同性に人気があり・・・別に嬉しい事でもないのだが。
まぁ、お菓子は好きだし、皆で食べれば良い事で、それなりに楽しんでいたのだ。
そして周囲には、彼女以上に同性から、バレンタインチョコを貰う者はいなかった。
上には上がいるもんだ・・・と思いながら春海を見ると・・・すでに箱を下ろした彼は、さっきの倍増しのアレを撒き散らしている。
何だ?玉子は恐いもの見たさで近づいてみる。
ダンボールの中には、女子で無い(名前のカードの)代物がチラホラ見てとれ、比例するように例の(アレ)が発生している。
これ以上近づくのはやばいなと、野性の勘が告げ、自然と腰が引けた。
それでもいるかは、何も気付いていないようで、平気な顔で、春海の横に立ち、一緒にダンボール箱を覗いている。
あいたたたた・・・巧巳と玉子が顔を見合わせ、これってまずいんじゃないの(か)?と、目と目で会話した。
いるかの鈍感さは周知の事実で、それはどうしようもないとして、婚約者がバレンタインのプレゼントを貰って、平然としていられる訳が無いだろう。
まして春海ならば・・・。
そんな中問題の彼女は、ダンボール箱を覗きつつ、ため息を一つ吐いて言った。
「困っちゃうなぁ。どうしようコレ。」
花束の一つを持ち上げる。
「受取る理由も無いって、ちゃんと断ったんだよ。」
ヨシ!!
「食べられないしさ。」
基準はそこか!!
「大体さ。バレンタインは女の子がチョ、チョ、チョコレートをあげる日でしょう。意味わかんないよ。」
解れよ!!すげぇ、気づいて無い(ねぇ)!!
突然、唯黙っていた春海が、顔を上げて言った。
「俺が返しておいてやろうか。」
何気なく、明るく軽く言ったその顔は、朗らか・・・無駄に爽やか?だ。
「いいの?」
いるかは笑顔で返す。その顔には一点の曇りも無い。
春海、何を企んでんの(だ)!!と、玉子と巧巳は声にならない叫びをあげた。
「春海、ホントありがたいけどさ・・・名前は書いてあるけどね。あたし、顔なんて覚えてないよ。」
いるかが心配顔で言うと。
「別にいいだろ。」
春海は笑顔で答える。
2人は・・・お前はな!!と無言で見たが、だ・ま・れ!と、彼は目で殺す。
「何年なのかも、もちろんクラスもわかんないし。」
表情を曇らせいるかが言うと、春海は、いるかが持つ花束に差されたカードを一瞥する。
「山南敬介・・・2年3組だな。」
ついで視線を落とし、別の花束のカードを見る。
「あっちは・・・伊庭八郎、1年5組。」
今度は体を屈ませ、箱を一つ持ち上げた。
「これは、3年1組、学年トップの竹中半兵衛。」
まだまだ続くであろうそれに、3人は心底驚いた。
「春海、生徒の名前とクラスを全部覚えてるの?」
驚嘆の声をいるかがあげ。
「そんな訳無いだろう。まぁ、ちょっと、気になっててね。」
気になって・・・ああ、成る程・・・と、2人は納得する。
「ふーん、そう。とにかくコレ返せるんだよね。よかったぁ。」
春海のそのセリフは、彼女にとっては別段重要では無いらしい。相手がもし女子ならば、気になるだろうが・・・。
手間を取らせるのは、本当に申し訳ないと思っているが、顔も覚えていない相手なのだから、どうしようも出来ない。
それよりもいるかは、意味不明のプレゼントの数々を、返却できる事を喜んだ。
「春海ありがとう。それじゃ、お願いするね。」
「ああ、任せとけ。返しとくよ。きっちりとな・・・。」
春海は、プレゼントを再び一瞥した。
そんな彼を見ながら・・・確かにきっちり返すヤツだよな。お前は!・・・と、巧巳がニヤッと笑う。
一方玉子は、言葉の要らない2人の会話を、静かに見守るのだった。
当面の問題は片付いた。
いるかは、意味不明のプレゼントを見ながら思う。
あたしは今、それどころじゃないんだから!
いるかにとって重要なのは、春海へのチョコレートに尽きるのだ。
今年こそは、
「手づくりの神話の崩壊ならぬ、復活!を目指す。」と目標を立てて、この一週間、頑張ってきた。
昨日の夜、母葵からは、
「もう、チョコレートは食べないわよ。」と言われたばかりだが、それでも何とか、何となく、何だろう・・・形になってきたのだ。
もう1回作って、良いものを選んで・・・。
せめて、手づくりチョコレート用の箱、4つのスペースが全部埋まるように!
今年は、箱を包む紙も買った・・・春海には緑が似合うと思って選んでみた。
りぼんなんて、初めて買ったのだ。
色も色々、太さも色々、模様があったり、頭がくらくらする程並んだ中で、シフォンの薄い黄緑色を手に取って。
家に帰ったら、今日はチョコレート作りと、ラッピングもしなきゃ・・・。
いるかが百面相をしながら考えている横で、春海は、チョコ?の仕分け作業を進めている。
そして、1つ1つ確認していた彼が立ち上がり、ダンボール箱の一つを、入り口横に移動した。
今日の分の作業は終了したらしい。
その間も、いるかは会議用の机に紙を一枚置いて、うんうん唸っている。
それを見物する男子生徒が1人。肘を突き呆れ顔だ。
アホらしと女子生徒が1人。貰ったばかりのチョコを開け、口に放り込む。
春海は、入り口前から戻るや「いるか」と声をかけた。
彼女は顔を上げ「何?」と答える。
「あっちの箱が返却分だから、もし、男に何か貰ったら、あの箱に突っ込んどけ。」
「うん。」
彼は、剣呑な空気を漂わせて言った。・・・いるかが気付く程だ。
「どうしたの?なんかあった?腐ってたとか?」
「腐っ・・別に。」
そう言う春海の眉間には、深い皺が刻まれている。
「ごめんね。えっと春海、私から返そうか?クラスを教えて貰えれば、自分で行くよ。」
軽い気持ちで頼んだのが失敗だった。
何が彼を、こんなに怒らせたのだろう。いったい何が入っているの?
チラッと、ドア横の箱に視線を送ったいるかに春海は気付き、しまった!と思う。
中身は知らせたくない。
彼女はその意味に、多分、気付かないだろうが、俺が嫌なのだ。
「そんなに気にするな。金持ちのボンボンの頭の構造に、目眩がしただけだ。」
今度は笑いながら、軽く皮肉る。
「プッ・・・春海の家も、結構お金持ちじゃん。」
軽口で返しながらも、いるかが視線の端で、例の箱を気にかけているのに、気付かぬ彼ではない。
時計に目をやり、軽い口調で言葉を続ける。
「そう言えばいるか。玉子。時間はいいのか?」
いるかに声をかけた後、春海は玉子の方を向き、片目をつぶる。
意味深なその行動に、気付かぬ彼女ではない。
「わっ!いるか。もう、こんな時間だよ。練習行かなくちゃ。」
玉子が立ち上がると、いるかも時計に目をやり叫んだ。
「あ、ホントだ。春海ごめん。練習に行くね。あのこれ・・・。」
そして、ドアに向いながら、視線をダンボールに落とす。
「そいつの事は、本当に気にしないくていいよ。俺のほうでやっとく。練習に遅れるぞ・・・今日も、一緒に帰ろう。」
殊更優しい声色で春海が言うと、いるかはニコッと頷いて玉子の後に続き、生徒会室を後にした。
バタン
ドアが閉まったと同時に、巧巳が春海に尋ねた。
「何が入ってるんだ。」
プレゼントなんてものは、箱を持ち上げ振ってみれば、大体の物・形状は察しがつく。
中には、これ見よがしにラッピングされた物もあった。
にしても、春海がこれ程不機嫌を顕わにするなんて・・・。
「お菓子に花束ならまだいいさ。香水にオーデコロン・・・アクセサリー。」
声のトーンが下がる。あえて詳細は語りたくないらしい。
自信過剰なボンボンどもめ。自分達ならいるかに相応しいとでも言いたいのか。
「確かにな・・・。まぁしかし、モテル彼女を持つのも大変だな。」
香水にコロンにアクセサリー、確かに意味深過ぎる。
「とにかく、いるかには指一本触れさせない。」
まぁ、そうだろうな・・・声も無く巧巳は同意した。
その後、2人は野球部の練習へと向ったのだった。
~バレンタイン イブ~終わり
mameさんリクのお姫ないるかちゃんの謎が解けた!って最初に思いました。
文中の名前はjuniの趣味です。
ラッピングとかりぼんの色等もjuniが妄想して話していたものです。
mameさ~ん。あ( ̄○ ̄)り( ̄◇ ̄)が( ̄△ ̄)と( ̄0 ̄)う