~夏の終わり~②その頃別室では・・・、小柄な少女が薄紅色の地に、花の散った浴衣を着て、あれやこれやと騒いでいた。
ほんのり色の入ったリップを唇にのせ、髪を結い上げた姿は何とも初々しい。
「大丈夫かなぁ。可笑しくない?」
浴衣を借りたことはある。お見合いの時は着物を着て、一応化粧もした。
でも、その時とは、やっぱり、勝手が違う。
(あの時はしょうがなく着たんだし。似合うとか似合わないとか以前の問題で。)
今日は、初めての倉鹿での夏祭り・・・。
ちゃんと着付けた浴衣姿を見せるのも、一緒にお祭りに行くのも初めてで。
春海はどう思うかなぁ。
皆に笑われたらどうしよう。馬子にも衣装とか言われたら?
気になりだしたらきりが無い。
「お可愛らしいですよ。」
締めた帯を軽く叩き、お手伝いさんが言った。
(本当に愛らしい。初めてお会いした頃とは大違いだわ。)
「本当?」
「本当ですとも。」
気にする姿まで愛らしく、彼女の変わりようが微笑ましかった。
桜がほころぶように、少女に春の盛りが近づいてくるのが見えるようで。
「いるか、何時までかかってるんだい。春海君がお待ちだよ。」
ひょっこりと現れた叔母は、彼の最後の準備が終わるや、姪の様子を見に来たようだ。
「おや、可愛いじゃないか。馬子にも衣装とはよく言ったもんだよ。」
「五月蝿いやい。」
「なんだいこの子は。折角褒めたのに。」
彼女は一番いわれたくない言葉を言われ、とたんに不機嫌になった。
似たもの同士で、よると触ると喧嘩するこの2人である。
今にも喧嘩の始まりそうな様子を見て、お手伝いさんが口を挟んだ。
「春海さんがお待ちなんでしょう。いるかさん、急がれたほうが宜しいですよ。」
「いっけな~い。急がなきゃ。おばちゃんのバカー!」
急がなきゃと言いつつ、去り際に一言を残し駆けていく。
「バカとはなんだい。こら、いるか。そんな姿で走るもんじゃないよ。」
無理を承知で叱ってはみる。
私だって、あの時分は恋人を待たせまいと駆けていったものだ。
早く会いたい。すぐに見せたい。でも、何て思われるかな。
はやる気持と期待。あせる気持ちと不安。
「姪ばかって言われそうだけどさ。本当に可愛いねぇ。」
「そうですね。」
いるかを見送り部屋に残った2人は、小さく笑いながらそう言いあった。
当の本人は、叱られた事など構わず、そのまま小走りで廊下を移動し、居間に顔を覗かせる。
「春海、待った?」
くるりと部屋を見渡すが、らしき姿が見あたらない?
院長先生と向き合い、浴衣姿の男性が、自分に背を向け座っているだけだ。
(誰だろ。祖父ちゃんのお客さん?・・・春海、どこ行ったんだろう?)
きょろきょろする孫の姿を、祖父は可笑しそうに楽しそうに見ている。
「準備できたか?」
突然男性が振り向いた。
優しい笑みと、瞳にイタズラ心が見え隠れするその人は・・・。

「え?春海~~~どうしたの?それ?」
見慣れない格好に、一瞬彼だと解らなかった。
「いるか。おまえ今、俺だって解んなかっただろ。酷いなぁ。」
少し傷ついたような顔をして、彼は言った。実際はそんな事は無いのだが。
「ごめんごめん。どうしたのそれ?」
「ああ、院長先生がご用意して下さったんだ。」
2人のやり取りを、ヒゲをなでつつニコニコ笑顔で見ていた院長が、口を開いた。
「どうじゃいるか。わしの見立ては。よう似合っておろう。」
「うん。すごくかっこいいよ。」
普段あまり聞かない言葉を臆面も無く言われ、春海が少し照れつつ口を開く。
「いるかこそ可愛いよ。」
今度は、いるかが恥ずかしがる番で・・・。
「あ、ありがとう。」
おままごと?新婚さん?さながらである。
院長は片手で額を押さえ、息を吐きつつ2人に言い放った。
「お前達、祭りに早く行きなさい。祖父さんには熱すぎるわい。」
・・・・。
「熱すぎるって、何て事言うのさ、じいちゃん。」
いるかは真っ赤になり、春海は何となく上を向く。
「とにかく早く行かんか。鹿鳴会の面々がが待っるぞ。」
学院長はもう一方の手をひらひらと振りながら、追い出すように2人を送り出したのだった。
~夏の終わり~ ③につづく
mameさんが主だって書くいるかちゃんと春海はとっても甘いです。
パンダが参入するとお笑いです。
どっちも好きす。