こんにちは、mameでございます。
~波~後編をお送りします。
この後に、~夏の終わり~の続き?を更新しますね。
もし宜しければ、お付き合い下さいませ。
~波~後編
幸せ!と顔に書き、豪快に食べる。
藍おばさんが用意してくれていた、いるかの食欲を見越した大量の食事は、いとも簡単に彼女の胃袋に納まった。
見ていて楽しい。
しかし、いったい何処に入っていくのだろう・・・何度見ても不思議だ。
いるかの華奢な、小さな体の何処に・・・蘇る記憶、それを振り切るように話しかけた。
「この後どうする?ちょっと出掛けよう・・か?・・・いるか?」
満腹になると眠くなるよね~!と、何度彼女の口から聞いたことだろう。
まぁ、食後眠くなるのは生理現象の一つだから、しょうがないと言えない事も無い。
ただ、今日只今に関してだけは、どうだろう。
さっきの事も在る。
いるかの「怖かった。」の一言は、俺の心臓を鷲掴みにした。
思っていた以上に、想像をはるかに越えて。
頭へと伸ばした手に竦んだ姿は、冷水を被せられた気がした。
俺の行き過ぎた程の想いが、たった一人の君を、傷つけ遠ざける原因になることもある。
それは解っていたはずだ。
グッと手を握った。
「いるか。寝るんならソファーの方が良いじゃないか?」
いつものように、彼は言った。
「あ・・・うん。ちょっとお昼寝して良い?」
彼女は目をこすり、今にもテーブルに突っ伏しそうだ。
「いつものことだろ。」
いつものように話しかける。
「へへ・・・」
春海は、笑いながらヨタヨタと、先程のソファーに向かう彼女に付き添う。
ポッフン!
ムートンの上に倒れこんだいるかに、常備の薄い上掛をそっとのせ、頭を優しく持ち上げてクッションを滑り込ませると
「もう、お前がいやがることはしないから・・・おやすみ。」と、聞こえ無いように囁いた。
その時だ。
ふっと・・・いるかが春海を見上げ、たどたどしく口を動かし始めた。
「・・・あのね。ちょっと~怖かった、けど・・・」
瞳はあれよあれよという間に閉じられ、殆ど寝言の、彼女の言葉。
「春海は、いやじゃなかった。・・・びっくり、しただけ。春海は、春海だったら、いやじゃないよ。」
彼は、深い眠りに落ちるいるかの顔を凝視すると、零れるように微笑んだ。
そして、彼女の傍ら、彼の指定席に座り込んだのだった。
あの日のいるかの言葉を思い出して、湧き上がる笑みと同時に、決意する。
・・・いるかに合わせる・・・。
そして、遅ればせながらあることに気づいた。
「春海は、いやじゃなかった。」の、”は”の部分だ。
彼女に先日の記憶は無いらしい。聞いて、その前の事を蒸し返すのも憚られる。
・・・まぁしかし、いるかにそんなことをする奴・・・いや、したであろう奴は唯一人だろう。
くだんの噂を思い出す。
・・・火の無いところに煙は立たないからな。いるかに非の無い事は解ってる。
しかし、それとこれは別だ。
彼は、口の端を引きつらせながら、拳を強く強く握った。
そして一路、野球部の部室へと向かったのだった。
~波~おわり
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