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「いるかちゃんヨロシク」大好き!のmame+juniが運営しています。

~最初の夏~④

こんにちは~juniです。

~最初の夏~最終回です(*^▽^*)
ではどぞ~。


~最初の夏~④

春海と巧巳の傷(箱根駅伝の折の・・・)も癒え、学校行事も一段落した二学期のとある日。

マウンド上に立つ、一人の少女の姿。

女子サッカー部の練習を終えて、意気揚々と野球部にやって来たいるかは、腕をぐるぐると回し、これがあたしのウォーミングアップとばかりに、マウンドに立った。

そして、清々しい程の笑顔で、

「春海!これは上から投げていいんだよね~。」と、グランド脇に立つ河童頭に問いかける。

彼と並んで見ていた巧巳は、

「おい春海、あんな事言ってるぞ。」と訊ねるが、

「はは・・は。」

隣の乾いた笑いを見て、それ以上の言及は避けた。

キャッチャーの姿は無い・・・。

というのも、玉置がマスクを付けバッターボックスに入るのを、春海が止めたからである。

当の本人は、そんな些細な事!?と言わんばかりに、足元の硬球を拾うと構えに入った。

・・・よーし、グワンバルぞ。

「いくよー!」

いるかは大きく叫ぶと、足を高く上げ、腕を豪快に振り下ろした。

ビュッ!

ボールが放たれた瞬間、風切りが音が空気を裂き。

ゴォーーー!

ドゴ!

凄まじい音とともに、硬球は、コンクリートの壁にめり込んだ。

「おあ!?・・・マジかよ。」

・・・話は聞いてたが・・・。

「はぁ~、相変わらずだな。」

対照的な感想が2人から漏れる。

他の部員は、ただ唖然と、いるかを見た。

「いるかはアンダースローでも、140キロ近く投げる事が出来るんですよ。」

「スピード以前の問題だろ・・・ハンパねぇな。男なら即戦力だ。・・・にしても、バッティングピッチャーは、無理だな・・・。」

春海が大きく頷く。

その傍で、口では無理と言いながらも、巧巳はじっといるかを見続けた。

当のいるかは、部員にめり込んだ球を取り除いて貰うと、楽しそうに次の球を投げている。

・・・おもしれぇ。これが打てれば、どんな速球、剛球の奴が相手でもやれるよな。打てなくても、当てることが出来るようになれば・・・。

巧巳はその投球から目を逸らすことなく、玉置の肩に手をやり、何事か耳打ちした。

・・・基本中の基本、なんだよな。

バッティングピッチャー(打撃投手)は、打者の打ちやすい球を投げなければいけない。

・・・あいつの事だ。知らないんだろうな。俺ら(ピッチャー)とは逆の役目だし、いるかは器用とは言いがたい・・・それに・・・。

「捕れる人もいないでしょうし。」

そう言って横を見た春海の目に、玉置からマスクとプロテクターを受取る巧巳が目に入る。

「・・・何を。」

「お前さ俺を忘れてないか。最近は、バッティングに力を入れる為に、やってなかったけどな。」

ひざを曲げ、プロテクターを取り付けながら、言葉を続ける。

「サンキュー玉置、借りるな。」

つけ終わるやいなや、すっくと立ち上がると、ゆっくりとボックスに向かった。

「巧巳、あいつはストレートしか投げない。」

春海が巧巳の背中に叫ぶと、彼はOKとばかりに右手を軽く挙げ、マウンドに向け叫んだ。

「いるかストップだ!俺がうける。」

いるかは自分を呼ぶ、マスク越しの曇った声に、顔を向けた。

「もしかして・・・巧巳?」

顔は見えないが、知った声と体格に名を呼んだ。

「ああ。思いっ切り投げてみろよ。」

「へぇーー。キャッチャー出来るんだぁ。ありがとう。」

いるかはご機嫌な笑顔で答える。

そして、巧巳が定位置に座り、ど真ん中にミットをかまえると、「やっぱりキャッチャーがいた方がいいな。思いっ切り投げれるもん。」などと、のたまった。

その台詞に部員達が、「うげぇっ」「嘘だろ・・・。」と漏らす中、さらに大きく振りかぶると、腕を振り下ろす。

ビュッ!

ゴォーーー!

ズドン!

重量感の在る、小気味良い音と共に、剛速球はミットの中に吸い込まれた。

・・・コントロールは十分。ここからならコーチも出来るしな。実践さながら、いや、それ以上の練習だ。

マスクの下で、巧巳の口から笑いが漏れる。

彼はマスクを脱ぎながら立ち上がり、マウンドに立ついるかに叫んだ。

「一週間に一回、投げに来てくれ!」

「うん。わかった!ヨロシク、巧巳!」

嬉々とした表情で、いるかは右手を振る。

彼らの、春の甲子園に向けての戦いが、本格的に始まった瞬間だった。




春の選抜を前にした地区大会。

彼らは、それまでの「守備の里見」の認識を覆し、対戦校のピッチャーを震撼させる打撃力を披露した。

その後(のち)、里見学習院野球部のスタイルは、「守備と打撃の里見」として、後輩達に引き継がれる事になる。

~最初の夏~終わり④


juniは高校野球得意じゃないんです。でも今年は感情移入して見ました。
「こんな感じなのかな~。」とか( ̄、 ̄=)


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~最初の夏~③

~最初の夏~

誰も居なくなった通路で、コンクリートの壁に背中を預け、一人立つ姿。

・・・俺らじゃ・・・。

言葉が続かなかった玉置。その意味を理解した。

もう一方の壁を、ただ、見ている。

いるかでさえ、言葉をかける事が躊躇われた。

それでも・・・。

「春海。」

その名を、呼んだ。

音も無く彼はいるかを見て、ゆっくりと歩んでくる。

そして・・・。

すとん!っと、彼女の肩に、顔を埋めた。

「・・・・。」

言葉無く、少し震えた肩。

いるかが両の腕を春海に回しギュッと抱きしめると、感極まったように春海も、強く、いるかを抱き返す。

ありったけの悔しさを振り絞るように・・・。

いるかの学ランの肩に白い跡を残して、彼らの、最初の夏は終わったのだった。




「はぁ・・・。」

肩越しの息にドキッとする。緩む腕と連動するように、春海の声が耳に届いた。

どれくらいの時間がたったのか、長いような短いような時間が過ぎて、やっと聞こえた、いるかにしか届かない程度の。

「負けたよ。悔しいな・・・あの一発を俺が許さなきゃ・・・。」

体を離しながら春海は言い、いつのまにかその手は、いるかの肩に移動していた。

「そんな!」

目と目が合い、口を衝いて出る言葉をいるかは飲み込む。

・・・きっとあたしもそう思う。

春海にも、いるかの気持ちが伝わったのだろう。

「次は負けないさ。」

「うん。」

いるかは素直に相槌を打った。

彼は次こそ誰にも、自身にも負けないだろう・・・そう確信する。

顔を上げた先の、勝利しか見ていない強い決意を全身に漲らせ、

「控室に行くか。」

「そうだね。みんな待ってるよ。」

振り切るように春海は、光射すグランドに背中を向け、いるかの肩に手をやった。

いるかも笑顔で、彼の肩に手を回したのだった。




春海は控室のドアを開けると、集まる視線と安堵の表情に、「ご心配をおかけしました。」と、頭を下げた。

しんと静まり返った控室。

後ろに立っていたいるかは、

「あたし、外で待ってるね。」

そう告げると、まだ開いたままのドアに向かおうとしたが、掴む腕に止められた。

強く握るその腕にいるかは足を止め、次いで巧巳が声をかけた。

「いるか、お前はいろよ。」

意図のわからない一言と、何より彼女を掴む腕に留められ、いるかは控室のドアを閉じる。

再びの静寂。

誰も動けない程のそれを破ったのは、春海だった。

ゆっくりといるかの腕を放し、控室の部員全員に向け、

「僕の気の緩みでまねいた一発でした。申し訳ありません。」

帽子を取り、頭を下げる。

ひざに置かれた手のひら、握られた帽子が一瞬、小さく震えた。

巧巳も含めて、山本春海はまだ1年の、最初の甲子園だった事を思い出す。

落ち着き払い、堂々とした投球に忘れがちな事実。

そして、誰よりも強い責任感。

「山本、頭を上げろ。あの失点は、俺のエラーのせいだろ。」

「いや、俺の送球ミスだ。山本、お前は完全に抑えてた。」

「あの時、皆の動揺に配慮出来なかった俺の責任だよ。すまん。」

選手達が、玉置が言う・・・が、

「いえ、僕の」

再び謝罪しようとする彼に、巧巳が怒鳴った。

「山本!いい加減にしろ。」

その空気を震わせるような怒鳴り声に、いるかを含め、春海や部員全員の背中が伸び、視線が集中する。

「野球はお前一人でしてるわけじゃない。戦力不足の原因は、もとはといえばリコール・・・俺だ。」

「しかし!」

春海が言葉を挟もうとするが、それを遮る様に巧巳は続ける。

「第一、お前がいたからベスト4まで来れたんだ。」

その一言に、「そうだ。」「そうだよ。」部員達の間から声が上がった。

「もう一度言うがな、野球はお前一人でやってるんじゃないんだ。」

繰り返した台詞の後、巧巳はニヤッと笑う。

「いくらお前が0点に抑えても、誰かが打たなきゃ勝てないしな。」

春海は、彼の少し意地悪な台詞に目を見張り。

「それに、0対0で延長・・・そんでジャンケンして勝っても・・・面白くないだろーが。」

予想だにしなかった結末に、破顔した。

他の部員も、いるかも笑った。

「うちの敗因は、たった一つだ。打撃力だよ。いいか春海、間違っても自分のせいだなんて思うな。」

・・・お前らは、一人で背負いすぎなんだよ。

巧巳は、睨みつける様に春海を見る。

「それは驕りだ。一人じゃ野球は出来ないんだ。」

「はい。」

・・・怒られてるのに、春海嬉しそう。何か、あたしも嬉しいや。そうだよね。一人で戦ってるわけじゃないんだ。巧巳!良いこと言うじゃん!

自然、巧巳に視線が集まる。

そんな中・・・。

「そうだ。打撃力だよ。低いもんなぁうち。巧巳と山本以外はさ。」

ボソッと・・・玉置がため息を吐きながら言って、下を見た。

釣られる様に、他の部員も床を見る。

・・・結局不甲斐無いのは、俺らなんだよ。

彼は、グッと両手を握り締めると顔を上げ、一言叫んだ。

「やる事は一つ、打撃力の強化だ。みんなやるぞ!」

「おーー!」

部員達は一斉に声を上げる・・・そうだ、進むべき方向は決まった!

一気に上がる士気に、控室の空気は一変する。

負け試合の後とは思えない盛り上がりの中、

「巧巳!春海!打撃コーチ宜しくな!」の玉置の一言に、彼らは顔を見合わせた。

燃えやすいのは若者の性とはいえ、もうバッドを握る者もいる始末で。

その中でも・・・とかく野球に関しては人一倍熱心な巧巳は、顎に手をやりもう思案顔である。

一度は諦めかけた今の状況、リコール後は尚更というものだ。

「そうなると、バッティングピッチャーをどうするかだな・・・マシーンじゃな。」

彼の何気ない一言に、いるかがピクッと反応した瞬間!

いるかの口を押さえようと春海が手を伸ばし。

ヒョイッといるかがその手を逃れ。

「はい!はいは~い!あたしやるーーーー。」

そう叫びながら右手を高く上げるいるかに、春海の表情が変わった。

こいつ!何も解ってないな!

あわてて「いるか!ちょっとまて!」と叫んだ後、落ち着いたように見せて、「俺がやりますよ。」と、言ってはみたものの。

「山本(春海)、お前にこれ以上、肩を使わせられるか!それに、バッティングピッチャーだぞ。」

予想通りの玉置と巧巳のお叱りに、黙るしかなく。

カンラカンラと笑ういるかの横で、思いもよらぬ展開に、春海は頭を抱えたのだった。

~最初の夏~④に続く


新作の中では③が一番好き( = ̄+∇ ̄=)v





~最初の夏~②

こんばんは~juniです。

前後編と思っていたら続きがぁ~~~mameさんごめんm(_ _;)m
全部で4回です。
今度は間違いありません。




~最初の夏~

思った通り、今までに無く苦しい戦いになった。

相手校のピッチャー達は、素晴らしい玉を投げる。

やっと里見の選手の目も慣れ、さあ反撃と意気込めば、継投で投手が入れ替わる。

そんな中、相変わらず春海と巧巳は敬遠されていた。

これまでの試合を、しっかりと分析されている。

たった1点で決まる!そう思わせる試合であった。

そんな中、全力で投げ続ける春海に、いるかは必死でエールを送った。

小柄な彼女が、大校旗を大きく振る。

頑強な男さえ、困難な行為だ。

「里見ーーーー!ファイト!」

誰よりも大きな声で、マウンドの春海に力を!

彼女には判るから。

・・・いつもの春海の球じゃない・・・。

グランドでは、巧巳と、キャッチャーの玉置が同じことを感じていた。

大きな球威の低下は無い。

しかし、今日の春海の球ならば、いつかはつかまる・・・。

1つのエラーも許されない試合展開に、肉体的にも精神的にも、里見の選手の疲労は溜まっていくばかりだ。

それでも何とか凌ぎ続けた8回裏、ワンアウトを取った次の打者は、巧巳と記録を争う、今大会屈指のスラッガーである。

今日三度目の好カードに、アナウンサーが興奮気味にナレーションをつけた。

「山本投手、ゆっくりと振りかぶります。投げたー。」

カーン!

金属バットの音が球場に響いた。

一塁手の頭を越えボールは飛んでいく。

「見事な初球打ち!不知火学園、初ヒット!ランナーは二塁へ。セーフ!」

アナウンサーの声に答えるように、バックボードにヒットの文字が浮かんだ。

マウンドに立つ春海は、帽子のツバに手をやり視線を落とす。

ゆっくりとプレートの土を払い・・・落ち着け・・・と言い聞かせる耳に、

「フレー!フレー!さ・と・み!」

いるかの声が、心が届いた。

春海!頑張れ!

「ふぅ・・・。」

春海はマウンド上で深呼吸をすると、チラッといるかを仰ぎ見た。

・・・大丈夫だ。まだいける。全力を尽くすまでだ。

次の選手はすでにバッターボックスに立ち、彼の球を待ち構えている。

春海は、玉置のサインを確認しゆっくりと頷くと、振りかぶって投げた。

「ストライーク!」

速球が見事にキャッチャーのミットに納まる。

絶好調とは確かに言えないが、マウンド上の彼に動揺は無かった。

次の球。

カーン、再び響く金属音。

凡打!ゲッツーか?

「あー!里見エラー!球を後ろにそらした。その間に走者走る。あーっと、焦ったのでしょうか。送球が大きくそれました。ホームに間に合いません。」

均衡を破る一発が、野手の集中の糸を切ったのだろうか。

守備の堅さに定評の在る、里見学習院らしからぬプレーの連続で、

「不知火高校1点!貴重な。大変貴重な1点です。」

スコアボードには、白く1の数字が描かれたのである。

・・・まずいな・・・。

巧巳の頭によぎる一言。

そんな時、キャッチャー玉置が集合をかけた。

マウンドに、里見の選手たちが集ると同時に、

「みんな落ち着け。浮き足立つな。ここを守って、次の回に点を取れば良いだけだ。」

巧巳が、各々の顔を見ながら言う中で、玉置は、春海に声をかける。

「山本、大丈夫か?」

抑えたはずの場面での失点。

堪らない程のダメージを受けるのは、もちろんピッチャーである。

「はい。」

春海は、静かに、返事をする。

たった一発の安打とはいえ、それが無ければこの失点は無かったはず。

・・・必ず抑える。

その決意のまま、彼はその後の不知火学園の攻撃を、完璧に抑えたのだった。

そして9回表・・・。

スタンドからは必死の応援が送られていた。

涙目の生徒達の中心で、いるかは一層大きく大校旗を振りながら、

「フレー!、フレー!、サートーミ!」喉を振り絞り、叫ぶ。

・・・諦めない!絶対、絶対勝つんだから!

しかし・・・下位打線から始まった最後の攻撃で、3番春海、4番巧巳に打席は回らず・・・その日、里見学習院の校歌が、甲子園に響くことは無かった。



春海と巧巳は、涙を見せる事も、甲子園の土を拾おうともせず、グランドに一礼すると消えて行った。

客席のフェンスに噛付くように春海を見ていたいるかは、自分の視線を避けるように目深に帽子を被る春海に、どうしても声をかけることが出来なかった。

・・・いつもなら、必ず目が合うのに。

フェンスに阻まれながらも、どんなに距離があっても、いつもなら視線を交わす。

約束をした訳でもない。

いつも間にか、そうなっていた。

・・・こんなこと初めてだ・・・。

いるかはきびすを返して控室に向かった。

客席を駆け上り、通路を全力で走る彼女への声を無視し、警備員をも振り切って、里見学習院野球部控室に、春海のもとに向かう。

走りに走って控室前に到着すると、ちょうど里見の部員達が、反対側から歩いて来るのが、いるかの目に映った。

「みんな・・・。」

・・・何て言えばいいんだろう。

100%勝利を信じていたからこそ、彼らにかける言葉が浮かばない。

程なく、控室前のいるかに気づいた部員達は、汗と涙と泥まみれのまま、足早に駆けて来た。

「いるかちゃん。応援ありがとう。」

「副会長。元気もらいました。ありがとうございます。」

口々に、いるかへ感謝の言葉をのせながら。

今日までの試合、心から勝利を信じてエールをくれた。最後まで諦めず、俺達を信じて応援してくれた副会長の姿に、どれだけの力を貰ったことだろう。

「みんな、お疲れ様。あたしこそありがとう。」

自然に湧き出た、言葉と涙。

散々な前評判を裏切って、ベスト4まで勝ち進んだ彼らだ。

負けたのは悔しいだろう。どんなにか悔しいだろうと思う。

・・・でもあたし、本心から思うよ。

「みんな、かっこ良かった!」

いるかは涙をぬぐい、部員達に囲まれながら、

「すっごく、すっごくかっこ良かったよ。」と、笑顔で答えた。

さて、そんな彼らのもとに。

「こら君~~~!関係者以外は、勝手に入っちゃいかんだろ。」と、警備員が追いかけて来た。

振り切ったと思ったが、行き先を読まれていたらしい。

ぎょぎょっっ!と目を見開くいるかを見ながら、部員達は苦笑する。

・・・そう言えば、誰でも入れる場所じゃないか。いるかちゃん(副会長)らしいな・・・。

顔を見合わせる部員達を代表し、「彼女は関係者です。」と玉置が警備員に伝えると、

「そうですか。いやぁ、最近は凄まじいファンがいるものだから。」と、渋々ながらも警備員は通路を戻って行ったのだった。

・・・やっちゃった。春海のことで頭いっぱいだったしなぁ。

部員と共に警備員を見送りながら、「ありがとう。」と、口の端をちょっと引きつらせいるかは言い、そんな彼女を見ながら玉置は思う。

いつもなら真っ先に止める。いや、止めることが出来る唯一人を、彼女は目指して来たのだろう。

唯一人・・・それは、彼にとっても同じ。

笑って誤魔化すいるかに、玉置は静かに語りかける。

「山本は向こうに居るから。俺らじゃ・・・。」

目線と首で、春海を指し示した。

「いるかちゃん、行って貰っていいかな。」

彼女に目に、一人立ち尽くす、小さな影が映る。

すぐ判る、見慣れたシルエット・・・。

そのつもりで来たものの、彼らの顔を見て、もう一人を思い出す。

「巧巳は?」

取り囲む部員らをぐるり見渡し、表情を曇らせた彼女に、

「巧巳はこの中。」

玉置は親指を立てて横に向け、控室のドアを指差した。

「いつもそうだったから。」

そして、涙の跡の残る顔で、

「巧巳は大丈夫!俺らは、何度も一緒に乗り越えてるし。もう、一人では泣かせないから。」

そう、笑って言った。

玉置らの言葉に、いるかは「わかった。」と頷くと、小さな影を目指して歩き出した。

背後では、控室に入っていく、彼らの気配を感じながら・・・。

~最初の夏~③に続く


挿絵ですが諸事情により当分描けません。
ごめんなさい。


~最初の夏~①

こんばんは~juniです。
mameさんの新作~うれしい!

一つでは長いので前後編に分けました。
→訂正!juni早合点でした(8/13)




~最初の夏~

甲子園の土に容赦なく太陽が照りつけ、熱せられた空気が上昇するのと一緒に、選手たちの体力をも奪っていく。

そんな中、控え投手のいない里見学習院は、エースピッチャー唯1人で勝ち残り、準決勝まで駒を進めたのであった。




準決勝前夜、いるかは電話の向こうの春海に言った。

「あたし、男に生まれればよかった。そしたら一緒に戦える。・・・絶対負けないのに。」

確かに、いるかとなら負ける気はしないが・・・。

「俺は困るな。」

「どうして?」

「どうしてもだ。」

「訳わかんない。」

受話器の向こうの、口をへの字に曲げている姿が目に浮かぶ。

「女性に生れてくれてよかったって、俺は心から思うよ。」

「・・・女子も出場出来ればなぁ。」

諦め切れないといった感で、言葉をこぼす。

いるかのずば抜けた体力、あの剛速球と強打があれば、十二分な戦力になるだろう。

「とにかく、やり切るだけだよ。」

春海と一緒に走りたい。

あたしが支えたいのに、でも。

「そうだね。頑張ってね。」

言ってもらった言葉を、贈ることしか出来ない。

「ああ、頑張るよ。おまえも明日、はりきって応援してくれるんだろ!」

「うん、もちろんさ!」

電話線の両側で、笑顔で明日を決意しあった。




憎らしいほどの晴天が、高校球児達を迎える。

ベスト4の対戦相手は、名門不知火学園。

打撃力の名高い高校で、投打の選手層の厚さは全国でも有数である。

予選から春海は一人で投げ続け、今日も先発である・・・というより、彼以外、甲子園レベルのピッチャーが、現在の里見学習院野球部にはいない。

かのリコールが招いた結果なだけに、疲れた様子を春海はおくびにも出さないし、それに気づかぬチームメイトではなかった。

中でも、同室の巧巳だけは、彼の肩の状態を知っていた。

本来なら、絶対に投げさせやしない。

しかし部員全員が、いや、春海自身が試合を捨てていない以上、投げ続けるしかないのだ。




ウゥ~~~~~

サイレンの音が球場に響き、準決勝の試合が始まった。

先攻、里見学習院。

さすが名門校のピッチャー、球威、変化球共に素晴らしく、里見の選手は手が出ない。

約2名を除いては。

里見一回表の攻撃、1番2番は三振と凡退、エースで3番の春海、4番を背負う強打者巧巳は、徹底的な敬遠で勝負を嫌われた。

続く5番も三振で、里見は一回の攻撃をおえた。

とにかく勝ちに拘った作戦である。

今までの対戦から、2人を抑えれば勝てる・・・との判断だろう。

高校野球の精神、フェアプレイにかけるとの批判を覚悟しての、勝つ為の作戦。

「露骨だな・・・何が名門だ。」

巧巳が呟く横で、春海が答える。

「ああ。でも、理に適ってはいるよ。不知火学園の監督らしい。一番やりずらい相手だな。」

顔をグランドに向け、守備へと向かいながら、巧巳は返事を返した。

「そうだな。でも負けるつもりは無いぜ。」

「もちろん俺もだよ。」

苦しい戦いになる・・・言葉にせず、里見学習院の野球部員は、熱い土を踏んだ。

~最初の夏~①


何でも管理って大変だなぁって思う(T_T)
でもこのブログは別~!
mameさんの新作が最初に読めるから幸せ~o(*^▽^*)o


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「いるかちゃんヨロシク」の二次創作サイトです。
 <mame二次小説/juni イラスト>
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