こんばんは~juniです。
~翼~後編をアップします。
ではどぞ~
~翼~後編
・・・何してんだろう。こんな所に一人で。
いるかが探してたよね。
玉子は、いや学内の生徒は、断然、春海がいるかを探すという構図の方が見慣れている。
いるかがテープを切った場所に、一人佇み、コースに目をやる春海の姿を見て思った。
声をかける雰囲気でも無い。
しかし、当のいるかが彼を探しているのを知っているだけに・・・しょうがないかぁ・・・と、声をかけた。
「・・・春海!いるかが探してたよ。あっちのテントにいるからさ。」
玉子の声にピクッと反応し、不味いものを見られたとでもいう様に春海は振り返ったが、
「ああ、わかった。」
いつものように返事をし、指差された方へと向かおうとする。
玉子は、いつもと異なる春海の様子に溜息を吐いた。
「せっかく優勝したのに、そんな顔でいるかの所に行ったら、さすがのあいつでも気づくよ。」
「・・・別に。」
彼は、一応否定してその場を去ろうとするが・・・。
「いるかのことで何かあった?」
「うっ!」
玉子の核心を突く一言に言葉に詰まり、その態度で、「その通り!」と答えている自分に、頬を赤らめる。
「やっぱりね。」
「やっぱりってどうしてだよ。」
それでも何とか言い逃れようとするが、玉子の次の言葉に、
「春海、あんたってさ。普段はムカつくくらい冷静沈着だけど、いるかが絡むと、ほんっとに普通の高校男子だよね。」
言葉を失うしかない。
「いったいどうしたのさ。私でよければ聞くよ。」
春海はじっと玉子を見て。
・・・相談に乗るとは言わないんだな。犬飼らしい気遣いだ。
そんな事を考える。
いるかにとって、今や親友の一人である玉子。
自分の悩みをあまり語ろうとしないいるかが・・・。
「リコールの時ね。すぐに気付いて相談にのってくれたんだ。」
そう言っていたのを思い出す。
「なに?」
「いや、ちょっと質問していいか?」
今度は玉子が春海を見た。
・・・質問ね。いるかのことは一番よく解ってるだろうに。いまさら質問ね・・・。
「いいけどさ。」
質問という二文字に彼の迷いが見え、腕を組みながら返事をした。
「いるかの・・・あいつの運動能力、いや、潜在能力かな。犬養はどう思う? 今、一番近くでサッカーをしている、君の感想を聞きたい。」
・・・わざわざ、今、聞くこと?
そう思いつつも、
「いるかの運動能力ね・・・。ねぇ春海。私ら女子サッカー部って、そんじょそこらの男子部よりきつい練習してんだけどさ。知ってるよね。」
「ああ。」
里見学習院女子サッカー部。
毎年優勝候補に名を連ねるだけあって、その練習の過酷さは、他の男子運動部員や、最も過酷と言われる野球部の男子でさえ舌をまく。
曰く・・・あいつら女じゃねぇ。
「あいつさ。皆が練習でヘトヘトでも、1人、余裕があるんだよ。疲れたのを見たって言えば、今年の冬くらいかな。勉強との両立が厳しくてさ。」
「そうだったな。」
確かに、あの時分はさすがのいるかも疲れていた。しかしそれは・・・。
「でもアレは、普段使わない頭を使ってって感じだったろ。」
玉子の言葉に春海が笑う。
「ああ。」
「あたしさ。一年の球技大会の時、いるかにボロ負けしても理由をつけてたんだよ。バスケットだからってね。」
ふっと彼女の表情が変わった。
「でも、去年の駅伝の出場を決める草壁先輩との勝負を見て、いるかに体力では敵わないんだって悟ったよ。草壁先輩との勝負自体、無理だと思ってたしね。」
負けず嫌いで、いるかとガチンコで喧嘩をした彼女の言葉とは思えない台詞に、春海は注視した。
「サッカーと喧嘩は・・・あたしもそれなりにさ。いや、うん。・・・サッカーは絶対に負けられない。」
そう言うと玉子は、先程まで彼が見ていた駅伝のコースへと目をやる。
「・・・いるかの本当の力はさ、春海が相手するか、あいつ自身がライバルになる場所でなきゃ、出てこないんだろうと思うよ。」
いかにも悔しそうな表情。
「いるかは一生懸命だよ。でもあたしらは、あいつの本気についていけない。引き出せてないんだ。」
「・・・そうか。」
春海はそう言うしかなかった。
「でもさ、サッカーは負けないよ。あたし、小学部からやってるしさ。聞けばいるかは、学中で一年だけって聞くし。」
玉子を見ながら春海は、銀子や伊勢・・・かもめを思い出した。
彼女らも同じだったんだろう・・・いや、俺もか・・・。
「あたしさ、思うんだけど。」
「何だ?」
「いるかは・・・限界って感じたことが無いんじゃないかな。」
・・・そうかもしれない。
いるかと出会ってからの記憶を手繰ってみるが、”いるかの限界!?”そんなモノは浮かんでは来なかった。
一生懸命な姿は思い出せても。
「あたしらはあいつに、無理やりにでも引き上げられている部分があるからいいけどさ・・・。」
いったん言葉を切って、玉子は足元に視線を落とした。
「もしもいるかが、自分がどこまでやれるか知りたいって思ったら、今のままじゃ、満足出来なくなると思うんだ。少なくとも、私らとのサッカーではね。」
そして、もう一度駅伝のコースを仰ぎ見る。
「いるかはさ、誰よりも遠くまで飛び立つやつだと思うよ。今は良いけどさ・・・いつかね。」
・・・たぶん、周りがほっとかないよ・・・。
ちょっと寂しげな空気さえ漂わせて、玉子なりの考えを締めくくると春海を見上げて、
「春海、あんたの質問の答えになった?」と、軽く笑いながら言った。
「十分にね。」
春海は、柔らかい表情で玉子を見ながら、ワンシーンを思い起こす。
「走り足りないよー!春海。」
ゴール地点でいるかは笑いながら言った。
「もっともっと、もーっと早く!遠くまで走ってみたい。すんごく楽しかったんだー。」
共に感じる心からの嬉しさ。
一筋の不安。
気づかぬふりをしたそれを、三田村の一言が照らし出した。
そう言えば・・・。
前はいるかを追いかけて、ひっ捕まえて、真面目にやれ!って叫んでたな。
どうしてもほおって置けずに、引っ掻かれたり、噛み付かれたりと、散々な目にあっても。
他の誰にも向けない、自身の恥ずかしいのほどの熱意を思い出す。
玉子は、先刻とは一転変わった彼の様子を見ながら言葉を添える。
「でもさ・・・いるかがどんなに遠くまで飛んでいっても、帰るのは春海の所だろうし・・・。」
聞き入る春海に、玉子はからかいの笑みを浮かべ。
「いくら遠くまで行ったって、必ず捕まえるんだろ。」
あえて「一緒に・・・」と言わないのは、昨年の真相を知る所以だろう。
その玉子の、動揺を誘う一言に対して、
「そうだな。俺の帰る場所もあいつの所だしな。」と、迷いの消えた春海は、不適な笑みを乗せて返した。
そのノロ気さえ感じる返事に。
「ちぇっ!」と玉子は一つ舌打ちし、
「ご馳走さん。ほら、いるかの所に行きなよ。」と、ヒラヒラと手を振った。
「犬飼も行くだろ。巧巳も待ってるだろうしな。」
「あっ!うん。」
春海の何気ない台詞に反応しつつも、いるかと巧巳の待つテントに、2人は向かったのだった。
~翼~終わり
この後は当分mameさんお休みです(  ̄_ ̄)
近々コメントのお礼と近況をご報告します。
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