こんばんは~juniです。
~近づく距離~後編を更新しますです。
~近づく距離~後編
ピンポ~ン!ピンポ~ン!
呼び鈴の音に吸い寄せられるように、かもめは玄関に向かった。
そして、いとこの顔を見るなり、
「母さん!いるかだった。部屋に上がるね。」
そう一言叫んた。
彼女らの場合、玄関から直行で子供部屋に行くことは、珍しいことではない。
それでも、今日は久しぶりにの訪問だから、家人に挨拶をして・・・と、いるかは思っていた。
しかし、会って早々、かもめは従妹の手を引いて自室に引き入れ、開口一番尋ねた。
「どうしたの。いるか」
・・・どう見ても変・・・。
十数年一緒に育ち、従妹と言うより姉妹に近い少女の、今まで見たことのない表情。
迷い?困惑?寂しさ?いろんな色が・・・入り混じって。
「え、うん。」
いつものいるかは、頭で考えるよりも、行動が先。
猪突猛進、白黒はっきり、明と暗。
感情表現が豊かで、笑顔に泣き顔。
決して、こんな顔をする子じゃない。
「ホントにどうしたの?らしくないよ。」
・・・らしくない?・・・らしいって何?分かんないよ。
「あたしらしく無いって事?・・・あたしらしいって何?」
息苦しそうに顔を歪め、いるかはかもめに呟く。
「いるかはいるかだってこと。・・・何でもいいよ。話してみなよ。」
かもめは、小さなテーブルを囲むように用意しておいたクッションを、軽くポンポンと叩いた。
小さな頃から一緒の彼女らは、双子の様に似ているようで、かなり違う面を見せていた。
しかし、容姿が余りにも似ていたため、双方の親でさえ、時々間違うことがあった・・・性格さえ含めて。
その中で、琢磨だけが、2人を完璧に見分けていた。
最も似ている所は・・・正義感が強く、喧嘩っ早いところと、頭の程度。
でも、剣道に打ち込むかもめと、何でも適当だったいるか。
姉さん気質で皆を引っ張るかもめに、いつも弱者の味方で、台風のごとく皆を巻き込むいるか。
両親の常に揃った家庭で育ったかもめと、海外での仕事が多く両親との時間が短い・・・いるか。
そのせいか淋しがりやで、普段の行動からは想像も出来ないほど、周囲に気を遣う所がある。
いるかにとっては、両親と離れて暮らす寂しさを埋めてくれた・・・大切な、一番身近な”家族”のようなかもめ。
かもめにとっては、幼馴染でいとこで宿命のライバルであり親友、それがいるか。
もう5分?いや10分近く?いるかはだんまりを決めていた。
いや・・・だんまりではない。
言葉を選んでる?探してるのかな?
付き合いの深さで、彼女を慮る。
いるかも、どう言えばいいのか考えあぐねていた。
・・・別に飾ろうとは思っていない。
やっと、小さくかもめに尋ねる。
「あのさ、かもめと琢磨ってさ。今・・・どこまで・・・。」
あまりにも想像していなかった一言。
その上、いるからしからぬ質問に、かもめは言葉を失った。
学校の友人が、好奇心丸出しで、かもめに聞くことは多々ある。
もちろん、彼女はまともに相手しない。
でも、いとこの口から、それ系のセリフが出て来たことはない。
性格的なものだろうか。
お互い・・・どちらかというと、恋愛系の話題は苦手である。
・・・と言うより、小さいころは「男の子なんて嫌いだ!」そんな話ばかりで、あまり深く、恋愛系の話をしたことは無い。
ここまでストレートなのは、あの中学3年の日、琢磨とかもめを心から心配しての言葉、その時以来だ。
だからこそ、好奇心からで無いことは分かるが、驚きは隠せなかった。
彼女のその様子にいるかは、しまったぁ~っと顔を歪ませ、「ご、ごめん。変なこと聞いて・・・。」と、言葉を紡いだ。
・・・・・。
2人の間に沈黙が流れる。
いたたまれない空気に、いるかは、久しぶりに訪れたいとこの部屋に、視線を泳がせた。
棚の上には、幼馴染3人の写真の横に、2人の写真・・・琢磨とかもめ2人の、中睦ましい1枚が飾られていた。
明日の予定の為だろうか。
選び抜かれたであろう洋服一式が、出番は今かとハンガーに掛けられている。
小さいころから居なれた部屋は、ほんのり色づいている。
「・・・やっと、いるかと春海君に追いついたって感じかな。」
かもめが、ゆっくりと口を開いた。
「え?あたし達に追いついたってどういうこと?」
いるかが質問を返す。
「・・・恥ずかしいこと聞き返さないでよ。2人は婚約までしてるんだからさ。もちろん・・・その・・・ね。」
かもめは、言えない単語を匂わせる。
「もちろんそのって・・・え~~~~~!!!!は、春海とは、キ、キスだけだよ。」
「・・・キスだけって・・・え!嘘。」
「嘘じゃないよ。」
「春海くんって、手が早そうじゃない。2人で家出までしてるし。」
「かもめは、春海のこと誤解してるよ!(してないと思います・・・笑)それにさ、家出したのはあたしだよ。春海は追いかけて来てくれたの。」
・・・いや、だからこそ、もうそこまで行ってるかと・・・。
いるかは真っ赤な顔で、口をへの字に結んだ。
かもめはそんな従妹の顔をまじまじと見ながら・・・春海くん、大変だぁ・・・とひとりごちる。
「なに?」
聞こえるかどうかのその声にいるかが反応するが、かもめはあえて聞き流し、
「つまり、そういう相談なんだ。」と、言葉を返す。
するといるかは、更に赤くなりながら、「う・・・ん。」と答えたのだった。
解ってしまえだ事は簡単だ。
つまり、この真っ赤な少女は、準備が出来たと伝えたいのだ。
可愛いなぁ。
付き合いも長く、姉妹のように育ったいとこ。
・・・そういえば、いくら彼氏が出来たからって、いるかはいるかなんだよね。
先に彼氏ができ、婚約までしたいとこは、自分よりも何歩も速く、大人になっていたと錯覚していた。
「春海くんに言ったら。」
「何て言うの?」
「何て言うのって・・・言えたら悩まないか。」
「でしょ。かもめと・・・琢磨はどうだったの?」
「え!・・・と、琢磨とは自然に。」
「自然に・・・自然に・・・それじゃ全然分かんないよぅ。」
「3年も付き合って、婚約までしてるに・・・。」
鏡を映したような2人は、ふぅ~っと顔を見合わせため息を吐いた。
・・・難しい・・・。
確かに、いるかが悩むのも解る。
「春海くんに、”あたしは大丈夫だよ”って言う・・・とか。」
いるかはかもめを凝視し、ブンブンと首を振った。
それが出来れば、こんなに悩んでなどいない。
・・・いるかは、言えないよねぇ・・・いるからしいって言えば・・・それまでだけど。
ありあまる行動力、男勝りで喧嘩っ早く、2人で泣かせた男どもは数知れずの・・・いるか。
愛すべき素顔は、どこまでも奥手で、恥ずかしがり屋の少女。
かもめは再びいるかの顔を見る。
この少女に相応しい伝え方。
相手は、あの人一倍敏い彼で、きっと、今か今かと待ち構えているはず。(笑)
ほんの小さなシグナルも、見逃すとは思えない。
かもめはもう一度いるかに視線を向け・・・どうしたら・・・と考えながら、言葉以外の何か!と、部屋中を見る。
・・・手紙は・・・書いて渡せるくらいなら、もう言ってそうだし、書く内容も、いつ渡すかも悩みそう。
・・・言わなくても、書かなくても、タイミングも何とかなる・・・難しいなぁ。
考えながら目に入った、明日の予定の服。
上から下まで揃えられた一式の中の、ある物が目に飛び込んだ。
・・・あ~!あれだ!!!。
かもめは、すっくと立ち上がり、それを手に取った。
いるかは突然立ち上がったかもめを、何事かと見上げる。
「うん。これだったら大丈夫。いるか、あたしの言う通りにするんだよ。」
かもめは、いるかそっくりの笑顔で微笑んだのだった。
~近づく距離~終わり
mameさ~ん。
続きが気になる~(>.<;)
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