こんばんは~juniです。
続きアップしま~す。
どぞ~
~ミラーイメージ~ 中篇
・・・これでもう、誘われるようなこともないだろう。
春海は急ぎ足で歩きながら、先程のやり取りを思い出した。
自身に問うてみる。
もし参加して、揺らぐことがあるのか?
ノーだ。
それでも、参加する気は起きない。
義理立てするような奴がいるのか?
・・・義理立てというより、いるかに余計な心配はさせたくない。それに、興味が無いって言葉が一番しっくりくる・・・。
そう埒もないことを考えながら、足を止めずに校門へと向かった。
彼にとって、最も大事な時間が待っている。
今日はお互いの講義が早く終わるうえ、いるかの陸上部の練習が休みなのだ。
彼女に向けられた期待、そして実績。
男子と合同で行われている、日々の過酷な練習。
春海も、日々多忙を極めている。
大学在学中に司法試験の合格を目指す彼は、その勉強をしながらの早期の全単位取得に忙しい。
その中で縫うように見つけた、久しぶりの・・・長めの2人だけの時間。
昼食を一緒に取ろうと約束し、その後夜まで一緒に居られる。
彼女は今頃、何をしているだろう。何処に立ち、何を思っているだろう。
待ち合わせ場所に向かっているだろうか。
彼の思考の何処にでも、彼女が存在していた。
・・・俺が今いるかの事を考えているように、いるかの中に在れば・・・。
春海は軽く赤面しながら、一段と足を速めたのだった。
「婚約者がいるなら言ってくれよ。きさらぎいるかちゃん!だって。」
週明け開口一番に、平尾の口から飛び出したセリフに、春海はつい剣呑な視線を向けてしまった。
・・・いるか・・・ちゃん?・・・。
次の瞬間にはいつもの冷静な彼に戻ってはいたが、その予想外の反応に、横に立っていた佐藤が目を見開いた。
聞いた話では、「親同士が決めた仲・・・だけど・・・」。
少々語尾が気になる表現ではあるものの、この歳で婚約とは、山本春海の立場であれば、充分ありうる話だが。
・・・全然面白くないぜ・・・。
そんな感想を抱いていただけに、一瞬垣間見えた、普段クールすぎる学友の感情むき出しの姿に、正直驚きを覚えた。
・・・興味が増すじゃないか・・・。
2人は顔を見合し、春海は自身の失態に心中で舌打ちしながら、聞かずとも次のセリフを理解した。
「婚約者殿を紹介してくれよ。」
予想通りのそれに、彼はもう表情を取り繕うこともしない。
「断る。」
その断固とした物言いが、佐藤と平尾に更なる興味を呼び起こす。
「別にいいじゃないか。友達だろ。」
「断ると言ったら断る。」
彼の様子を見る限り、正攻法で行っても、平行線なのが見て取れる。
ならばと・・・。
「おい平尾、俺さ近々里見大に行くんだ。ちょっと野暮用でさ。」
「おー偶然だな。俺もなんだ。」
2人は春海に和やかな笑みを向け、やおら歓談し始めた。
何ともワザとらしい光景に、春海はただならぬ空気を醸し出し、初体験のそれに、佐藤と平尾は冷たい汗を感じながら。
「偶然に、如月いるかちゃ・・・さんと会うこともあるかもな。」
「そうだな。有名人だし、すぐ見つかる・・・かもなー。」
彼の射殺すような視線と、全身から発せられるただならぬ冷気に顔を引き攣らせつつも。
「婚約者の学内での様子をさ、話せば喜ぶだろーなー。」
「婚約者殿がどれだけもてるとか。狙ってる女の数とか・・・。」
口を閉じることはしない。
まったく諦める様子のない。いや、すぐにでも実行しかねない2人に、
「分かった。紹介する。ただし、余計なことは言うなよ。」
春海は苦々しげに、いるかを紹介することを了解したのだった。
女なんて・・・と、ガキのくせに生意気なことを言っていた。
学ランを着る頃になっても、周囲程異性に関心を持てなかった気がする。
彼女が欲しい!と思ったことも無ければ、別段、取り立てて議論する事も無い。
今考えれば・・・いるかに出会わなければ、周囲の勧めに応じて”まのか”と婚約していたかもしれない・・・そう思う。
少なくとも、他の異性よりは好感が持てた。
それが、従妹である故だとしても。
五月蠅く思う事もなければ、邪魔に思う事もない。
優しくする理由もあり。
長男としての、最低の責務を果たす事も出来る。
形だけの表面的な・・・山本春海。
それが、唯一人しか見えなくなるなんて、想像もしていなかった。
第一印象は最悪で、まさか俺がこいつを!?何かの間違いだろ!?とも思った。
出会った日から、もう十分すぎるほど自身に驚いてきたのに、最近の自分の変わり様に又、驚いている。
いるかを得れば落ち着くと思っていたが、実際はそうもいかない。
その理由は至極簡単で・・・当然の事だ。
卒業し、それぞれの道を選び、2人で居られる時間が極端に減り、姿や過ごす時間が見えない現実。
一抹の不安。
日々募る想い。
愛しすぎる・・・指の先から、髪の一本にいたるまで。
ずっと傍に置きたい。
目の前にいて欲しい。一緒に居たい。
何処に居ても、誰と居ても、必ず彼女を無意識に探す。
昔の俺が、”情けない男”と評していた、そんな男。
今の自分を”情けない男”とは思っていない。
大切な存在、守るべき存在、失うことの出来ない存在が、昔の自分には居なかっただけだと解っているから。
いるかを彼らに会わせるのが、嫌なわけでは決してない。
ただ、自身の中に、未だ消化しきれない物がある。
平尾と佐藤、T大学の中にあっても、彼らは極めて優秀な学生である。
頭脳だけではなく、人としての素養も含め。
春海も認める、一目置く彼ら。
ふと、あの夏の日々が思い出された。
俺だけのいるかに、触れた。
平気な訳が無い。
余りの衝撃に一瞬呆然となり、全てが止まった。言葉一つ発せない。
そして、次の瞬間に湧き起こる激情。
不可抗力としか言いようのない場面で、嫉妬の炎のみが燃え上がり、目の前の2人に襲い掛かりそうになる。
いるかを、責めてしまいそうだった。
平静を装うしかなかった。
いるかが傷つくほどに・・・。
いつもそうだ。
無邪気で透明で、太陽のような彼女。
いるかの光に群がる者や、抗いがたい引力に魅かれる者。
・・・俺だってその一人だ。いるかが選んでくれたという違いを除けば・・・。
群がる者を蹴散らすのはたやすい。
しかし・・・彼女が認め、己が彼女の横に立つ人物として認めざるをえない人物で、魅入られた者となれば話は異なる。
譲れない。
離したくない。
変わらない、変われない想い。
渡せないという気持ちと、いるかにとって・・・もしかしたら俺よりも幸せではないのか?・・・そんな考えがせめぎ合う。
進・・・優しく包容力のある彼。
何でも話せる・・・後に誤解と分かったが・・・進との方が、いるかにとって良いんだろうか。
至らない自分、動けない自分に腹が立った。
・・・どうして話してくれないんだ・・・動かない自分を棚に上げて。
そんな俺の思い込みを解いたのも、優しい彼だった。
巧巳の、いるかに対する好意を隠さない姿・・・いるかを安心させる事が出来るのは、彼なのではないのか?
自分が憧れ、尊敬する巧巳。
・・・どうして、こうなるんだ・・・。
心の向く先は、止めることは出来ない。
誰にも、どうしようも出来ない。
大切なことは壊れやすいから。守ること、伝えること、戦うことに果ては無く。
いるかの幸せを願って、ただ彼女を信じて、自分の窓を開けるしか無い。
「明後日の夕方、彼女と会うんだが・・・どうする。」
憮然とした物言いは、普段冷静な彼ばかりを知るだけに可笑しい。
「何としても時間を作るさ。なぁ。」
「もちろん。」
学友2人は、一も二もなく返事を返した。
・・・友人らの同行は、いるかを素直に喜ばせた。
初めて春海の大学の友人に、彼女(婚約者)として紹介される・・・気恥ずかしさと嬉しさ。
大学での様子を聞けるかもしれないという期待。
彼らは駅のホームで待ち合わせし、夕食を共にする事となった。
~ミラーイメージ~後編へつづく
あぁ~いるかちゃん描き直さないと。
mameさん最初に言っておくれよ(--,)
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